虚子百句 【三】
 柴漬に見るもかなしき小魚かな    『五百句』所収(明三一)
 季語は柴漬と書いて「ふしづけ」と読む。松やうつぎなどの枝を束にしたものを川や湖沼の漁場に沈めておき、そのなかに撒餌をすると小魚が集まって来る。折を見計らってそれをたも網などで掬い取るのである。漁の済んだ後、再びその柴束を水中に戻し、同じことを繰り返す素朴な漁である。
 柴漬を引き上げるとき一斉に水雫が飛び散り辺りに光の玉が散乱する。と同時に、その雫も収まるころ網の中に獲物が跳ねる。なんとも長閑な人の営みではある。
 多分に俳諧味をもった季題だけに、かえって実作は容易ではない。物珍しさもあって集中しにくい風景の一つかもしれない。強く、ひびき易い精神でなければものの把握は難しい。出来ても通俗的なものに陥り易い難しさがこの季語にはある。
 罠にかかった小さな命に心いたむ風雅のまこととしての見事な一幅の絵である。
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